電子伝達系・酸化的リン酸化の仕組み:ミトコンドリア内のダムと水力発電所

 

  解糖系・クエン酸回路において糖・アセチルCoA等が酸化された結果,主にNADHFADHなど,還元力が強く,電子とHを大量に含む化合物が合成される。これらの化合物の還元力を利用してATPが合成される。

 

NADH+H+0.5xO→HO+NAD ・・・自由エネルギー変化=−218kJ/mol

ADP+Pi→ATP      ・・・自由エネルギー変化=30.5kJ/mol

 

NADHの酸化反応はATP合成に必要なエネルギーを十分放出してする。それどころか,本来NADHが持っているエネルギーでは理論的に分子ものATPを作ることができる。そこで,この放出されるエネルギーを有効に利用するためにミトコンドリア内に電子伝達系と呼ばれる代謝経路が存在する。

 

電子伝達系の働く場所:ミトコンドリアの内膜に埋め込まれた状態で存在する。電子伝達系はこれまでの代謝経路と違い,膜の中で行われる。(教科書389ページ,図18.2,393ページ,図18.8)

電子伝達系の概要:NADHから出発して次々と3種類の蛋白質複合体(複合体I,複合体III,複合体IV)を介して電子が渡される(酸化還元反応として)。その際に水素イオンミトコンドリア内部(マトリックス)からミトコンドリア膜間部に輸送する。FADHの場合は複合体IIIIIIVと移り,同様に水素イオンを膜間部に運ぶ。

重要! ミトコンドリア内膜は水素イオンを通すことができない。電子伝達系の働きにより,ミトコンドリア内膜をはさんでかなり強い水素イオンの濃度の偏り(つまり,電圧)が生じる。→この「電圧」が最終的にATP合成を推進する「動力」になる(酸化的リン酸化)。

 

電子伝達系の各反応

1.複合体 I:NADH−補酵素Q(CoQ)オキシドレダクターゼ

NADH+酸化型CoQ→NAD+還元型CoQ(CoQH

 上記反応は一見単純に見えるが,NADHがCoQに電子を渡すまでに蛋白質内部で

NADH→FMN鉄・硫黄クラスター→CoQ

のリレーが生じている。この際の反応で水素イオン4個がミトコンドリア外に。

 この反応では水素イオンを運ぶ大切な役割の他に,2個の電子をNADHからCoQに移す重要な役割を持つ。NADHはその分子の構造故に一度に2個の電子を放出する反応しかできない。ところが,複合体 I で電子を受け取るFMN,鉄・硫黄クラスター,およびCoQはすべてNADHから2個の電子を引き受けてこれを一つずつ,別の分子に渡すことができる(ラジカルと呼ばれる,本来不安定な分子状態がこれらの分子の中で安定に存在できるため;教科書395ページ,図18.10)。以後の反応では電子は一つずつ伝達されるので,この反応はそれの重要な準備。

 

2.複合体 II:コハク酸−CoQオキシドレダクターゼ

FADH+酸化型CoQ→FAD+還元型CoQ

この反応はクエン酸回路のコハク酸デヒドロゲナーゼ(クエン酸回路の反応No.6)で合成されるFADHを電子伝達系に組み込むための反応。この反応では水素イオンは輸送されない(エネルギー不足)。しかし,CoQを還元することはできるので,以下の反応でATP合成に役立つ。

 

3.複合体 III:CoQ−シトクロムcオキシドレダクターゼ

還元型CoQ+シトクロムc3+→酸化型CoQ+シトクロムc2+

シトクロムcにかかれた「」と「」はそれぞれこの蛋白質の中心に存在するヘム鉄の酸化数を示す。CoQはその還元力によってシトクロムcの中心に存在するヘムに結合した鉄イオンを還元する。現在,還元型CoQ(CoQH)1分子が酸化型CoQ(CoQ)に変換される際に水素イオン2個,ミトコンドリア外に放出されると考えられている。このとき,複合体 III の中でQサイクルと呼ばれる複雑な電子伝達サイクルが機能すると考えられている(教科書399ページ,図18.15)。Qサイクルでは,2個のCoQH分子が使われて4個の水素イオンが輸送され,2個のシトクロムcが還元される。しかし,同時にCoQH1分子が再生される,からくりじみた経路である。

還元されたシトクロムcは最終反応の酸素の還元へと用いられる。

 

4.複合体  IV:シトクロムcオキシダーゼ

4シトクロムc2++4H+O→4シトクロムc3++2H

4分子のシトク ロムcに蓄えられた電子を利用して1分子の酸素を水に変える反応で電子伝達系は完了する。この反応でまず4個の水素イオンがミトコンドリア内部より使用さ れ,酸素と結合した水に変換される。できあがった2個の水分子はミトコンドリアの外へ。このほかにも,さらに2個の水素イオンがこの反応中に輸送されてい ることが実験で示されているが,その仕組みは謎。

 

NADHは従って複合体 I →複合体 III→複合体 IVで合計10個の水素イオンをミトコンドリア外に。

FADHは複合体 IIから複合体 III,複合体 IVへと移動する際に合計6個の水素イオンをミトコンドリア外に放出。

 

放出された水素イオンは内膜にあるATPアーゼと呼ばれる「水車」によって再びマトリックス内に移行する。その際,このATPアーゼは新たにATPを生産していく。その様は本物の水車のような動きを伴っていることがごく最近の研究により判明した。

最新の実験では水素イオン3個あたりATP1個の割合で合成されることが知られているので,最終的に

NADH1分子あたりATPが3分子

FADH1分子あたりATPが2分子

合成される。この合成される様子が解糖系の基質レベルのリン酸化と区別して

酸化的リン酸化と呼ぶ。

 

解糖系から集計すると

ATP相当の分子は4個

NADHは10個なので10x3=30個のATP分子

FADHは2個なので2x2=4分子のATP

が合成され,合計38分子のATPが1分子のグルコースより得られた。

 

実際の細胞の中でグルコース1分子=38ATP?(教科書408ページ)

 ミトコンドリア内膜を挟んだ水素イオン濃度の偏りは

  ・自然にHが漏出する 

  ・ATPを合成するために必要なリン酸をミトコンドリア内に輸送するために利用される

ため,実際の細胞では

NADH1分子でATP2.5分子

FADH21分子でATP1.5分子

合成される計算になる。

グルコース1分子からは従って

(解糖系でATP,クエン酸サイクルでGTPが各分子)+2.5x10(NADH)+

1.5x2(FADH)=32分子のATP が合成される。