生化学 I 講義補助資料 「タンパク質の三次元構造」

 

タンパク質は水 中で非常に複雑な形を形成し,その形は個々のタンパク質の働き(機能)を生み出すために必要不可欠である。タンパク質の構造的特徴は非常に複雑であるた め,議論を行うときはその特徴を4種類の階層的構造としてとらえ,それぞれについて理解しておくことが望ましい。

 

タンパク質の4層の構造とは以下の通り。

 

1.タンパク質の一次構造:これは,タンパク質のアミノ酸配列。タンパク質の化学的性質に最も近く,また最も基本的なレベルの構造的性質である。

 

2.タンパク質の二次構造:個々のアミノ酸の側鎖を無視して中心となる骨組み「主鎖」を眺めた場合,右巻きらせん構造やのびきった形,急に折れ曲がった形など,構造全体を通してみられる規則正しい構造単位がある。このように,

   ・アミノ酸側鎖の種類によらない

   ・比較的短いポリペプチド鎖領域においてみられる

   ・規則正しい

   ・ポリペプチド鎖主鎖の繰り返し構造

をタンパク質の二次構造と呼ぶ。

 

二次構造には大きく分けて4種類存在し,それぞれの特徴をまとめると以下の通り。

αヘリックス:血液タンパク質のヘモグロビンをはじめ様々なタンパク質で頻繁に見られる二次構造で,その特徴は

    1.右巻きのらせん状構造である。

    2.らせんが一巻き(360度一回転)する中にアミノ酸残基が3.6個含まれる(つまり,アミノ酸18個でちょうど5回転)。

    3.らせん一巻きでαヘリックスは長軸方向5.4Åのびる(これをらせんのピッチと呼ぶ)。

等があげられる。

  αヘリックスを作り上げる力は主鎖を構成する原子の規則正しい水素結合であり,ある特定のアミノ酸残基のC=O酸素はその残基の4個先にあるアミノ酸残基のN−H水素と水素結合を作る。教科書88ページにわかりやすい図が存在するが,このような水素結合網はちょうどαヘリックスというらせん状の形を補強する「」の役割を担う。

 

βシート構造βシート構造はαヘリックスと大きく異なってその特徴は「主鎖がのびきった」構造である。この構造もまた,様々な興味深い性質を持つ。

    1.βシートはのびきった状態のタンパク質主鎖(βストランド構造)が2本以上,水素結合網で連結することにより形成される。従って,αヘリックスのようにアミノ酸配列上近接した残基同士が相互作用するのではなく,大変遠く離れたアミノ酸残基が集まってβシート構造を形成する場合が多い。

    2.βシートの「シート」とは「」のような平面を指す。名前通りβシート構造を一枚の紙として見立てることができる。このとき,それぞれのアミノ酸の側鎖は紙の平面から垂直に突き出た様な場所におかれる。さらにおもしろいことに,その突き出る様子は紙の表裏に対して交互に入れ替わる。つまり,一つのアミノ酸残基がβシートの平面に対し上に側鎖が突き出ているとポリペプチド鎖の次のアミノ酸残基は平面に対し下に突き出る(89ページ,図6.10)。

    3.βシートを構成するおのおののβストランドは2通りの配置で連結することができる。N末端とC末端が同じ方向に配置されて連結する「平行型βシート」と,N末端とC末端が逆向きに配置された「逆平行型βシート」の2種類である。

 

αヘリックスの性質を非常に端的に表しているタンパク質の例が教科書90ページ〜92ページにかけて紹介されている。αケラチン(髪の毛の主要タンパク質),コラーゲンなどはほぼ100%αヘリックスからなっているので,細長い繊維が縦方向に弾力を持ち,伸び縮みできる。これに対して,絹糸にみられるフィブロインや羽毛にみられるβケラチンほぼ100%βシートで,同じ繊維でもほとんど縦方向にはのびず,非常にしなやか(曲げやすい)である。

 

・ターン構造,ループ構造:βシートや,2カ所以上のαヘリックスを連結するポリペプチド鎖領域ではしばしば急激に曲がった短いペプチド領域である場合が多い(90ページ,図6.14などを参照)。このような構造をターン構造と呼ぶ。ターン構造はαヘリックスやβシートなどとは異なり,アミノ酸側鎖の種類にやや依存する構造である。ターンにはポリペプチド鎖主鎖を急に曲げることができるプロリン残基(側鎖が主鎖と連結しているため)や,立体的にじゃまにならない側鎖を持つグリシン残基などがよく見られる。

  ターン構造(2〜3アミノ酸残基)よりも多くのアミノ酸残基を含む,よりゆったりとした折れ曲がり構造をループ構造と呼ぶ。

 

3.タンパク質の三次構造

 タンパク質の三次構造とは:

   ・1本のポリペプチド鎖が形成する全体構造を指す。

   ・三次構造では,各アミノ酸残基の側鎖がどのような配置になっているのか,その細部に至るまでの微細な構造的特徴も含まれる。

 

タンパク質の三次構造を作り上げる力:

   ・主にアミノ酸側鎖が発現する力が大切。タンパク質の二次構造を作り上げる力は「規則正しい」「画一的」「局所的」な水素結合の配置であったが,三次構造を安定化する力の特徴は「無秩序」「個性的」「広範囲」,つまり,どこにどのような力が働いて形が作り上げられているかは個々のタンパク質によって全く異なる。

 →「アミノ酸配列が異なるタンパク質が同じ構造を作ることはまずない

 

   ・三次構造の各所で見られるアミノ酸残基の種類→構造を安定化する力のヒント

     1.非極性アミノ酸残基:タンパク質の内部によく見られる。

       →疎水性相互作用の寄与

     2.電荷を持つ極性アミノ酸残基:分子の外側,溶媒にふれる場所に見られる。

       →水素結合,イオン相互作用の寄与

     3.極性無電荷残基:構造の表面にも内部にも見られるが,内部にある場合,  

       ほとんどの場合水素結合を作っている。→水素結合の寄与

 

三次構造を議論する際の重要な単語:

   ・モチーフ二次構造成分が集まって形成するより大きな構造単位。2本のαヘリックス(ααモチーフ),複数のβストランド(βヘアピンモチーフ),またはその混合(βαβモチーフ)などが代表的。二次構造レベルでタンパク質の三次構造を眺めると,構造全体はこのようなモチーフの集合体である。(教科書98ページ,図6.28)

   ・ドメイン:タンパク質の三次構造内で,構造の集合体が複数の「固まり」に分かれているように見える場合,そのそれぞれの構造の固まりを「ドメイン」と呼ぶ。ドメインはしばしばタンパク質の働きにも反映されていることがあり,たとえばある酵素において基質分子をとらえるためのドメインと,とらえた基質を処理し,反応を進めるドメインとにはっきり分かれた三次構造を見ることもしばしばある(100ページ,図6.31)。

 

4.タンパク質の四次構造:四次構造は複数のポリペプチド鎖が会合して形成する巨大構造を指す。四次構造を安定化する力は比較的弱い,非共有結合である場合が多く,そのため四次構造はタンパク質の他の3階層の構造に比べ容易に崩壊しやすい

  複数のポリペプチド鎖が会合して四次構造を形成している場合,そのタンパク質分子全体は「オリゴマー」を形成しているという。オリゴマーを構成するそれぞれのポリペプチド鎖は「サブユニット」または「プロトマー」と呼ぶ。従ってタンパク質の四次構造は複数の「サブユニット」が「非共有結合」的に会合した「オリゴマー構造」である。